推薦のことば

木村 文雄 氏 (一級建築士/ 山形大学工学部 客員教授)

 

このテキストのタイトル「五感で住まいをととのえる」の,とはどういう意味でしょうか.

 

  広辞苑によると「きちんとそろって乱れたところがない.片付く・整然・秩然」と解説されています.はあまり聞き慣れませんが,秩序と同じ意味です.この“秩”の語源は稲を収穫し順序よく積み上げる意味で,ひいては物事の順序の意を表すことになったようです.

 

さて,あらためて「ととのえる」とは何か?

 

 私は「調和をとる」とか「バランスをとる」と解釈するのが適切なのではと思います.

そう理解すれば,そこには何らかの法則やシステムが存在するはずで,ロジカルと言えます.論理的であれば他者に正しく説明することができます.例えば白銀比や黄金比などは美しいと感じるプロポーションの代表格であり,調和をとるための先人の知恵なのです.またシンメトリーに対してアシンメトリー(左右非対称)などもご存知のことだと思います.例えば棚に小物を飾る際にも無造作に置くのではなく,どのように並べれば美しいかという知識があれば,ととのえることができます.更に,この講座ではインテリアデザインで重要な照明計画についても学ぶことができるようです.生活シーンごとに灯りをどのように配置し,どのような明るさや色み(色温度)で点灯すれば心地よいかなど,知識があれば目的に応じて空間をととのえることができます.この講座を受講し,正しい知識を習得した暁には,受講生の皆さんは見事にインテリアをととのえることができるはずです.

 

 さて,このテキストではインテリアだけにフォーカスしているわけではなく,住まい(全体)をととのえるとしています.

すなわち見た目のインテリアの問題だけではなく,五感すべてで住空間をととのえる手法を講義しようとしているのです.

 

例えば五感のひとつである聴覚について考えてみると,その住空間に心地よい好きな音楽が流れているのか,或いは耳障りなノイズが聞こえるのでは,同じ空間がまったく異なったものになってしまうではないでしょうか.はたまた樹々の葉の揺れる音や鳥のさえずりなどが窓の外から聞こえてくれば,自然が生み出す揺らぎが,人に内在する揺らぎと呼応して,心をととのえてくれると思います.ではなぜととのえる方が良いのでしょうか?

 

私見ですが,ととのえられた空間と,そうでない空間では人間の生理反応にも違いがあるのではないかと思います.例えばととのえられた空間では自律神経が安定するとか,心地よいと感じるホルモンの分泌が促されたりするのではないかと考えられます.これらのことに関する研究はまだまだ途中段階ですが,研究テーマとしても重要です.

大切なことは,住まいをととのえるということ(手段)は,とりもなおさず生活者の心をととのえること(目的)に他ならないということを理解しておく必要があります.

 

 受講生の皆さんはまずはこの素晴らしい講座で,インテリアデザインの基本を学んでいただき,知識を深めていただいて,一人でも多くの生活者の心身がととのい,心豊かになることを願います.

 

--- 木村 文雄 氏 プロフィール ----------------------------------------------------------------------------------

一級建築士・山形大学工学部 客員教授 

 

[ 略歴 ]

1976年3月 芝浦工業大学工学部建築学科卒業 一級建築士

同年4月積水ハウスに入社。住宅設計、3D-CAD開発、販売促進、商品企画、研究開発などに携わり、

2006年4月、東京都国立市に実験住宅「サステナブルデザインハウス」を設計・建設し、パッシブでエコロ

ジーな住宅の研究を行う。

(サステナブルデザインハウス:第4回キッズデザイン賞 優秀賞、 第10回環境設備デザイン賞 優秀賞)

同社納得工房長、総合住宅研究所、所長を経て、2013年3月に定年退職。

同年4月より近畿大学建築学部 教授に就任。

サステナブルデザイン研究室を設立し、持続可能社会に求められる住まいづくりについて研究。

住宅建築専攻主任を務め2019年3月に定年退任、4月より非常勤講師を務め2021年3月終了。

2016年より山形大学工学部 特任教授に就任、2023年に定年退任後、客員教授に就任。

山形県米沢市に実験住宅「スマート未来ハウス」を設計・建設し、有機ELを住まいに有効に活用する手法に

ついて研究開発。

2021年より山形大学工学部 睡眠マネジメント研究センター 副センター長に就任 現在に至る。

[ 著書 ]

1 スマートハウスの発電・蓄電・給電技術の最前線 (共著)CMC出版

2 住みたい間取り−自分でつくる快適空間 (単著)日刊工業新聞社

3 住まいの百科事典 (共著)丸善出版

その他

日本建築学会 正会員 

関東学院大学 大沢記念建築設備工学研究所 研究員